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企画特集 より理解していただくために

第2回 対談(1):「エンハンシング」の言葉と本研究拠点の学問への取り組み

「エンハンシング」という言葉の意味-1

工藤(以下K):21世紀COEプログラムに申請するときに、「地域文化」をキーワードとしていこうという話がありました。しかし、地域文化という言葉だけでは、私たちの学際的な試みを表現するのに物足りない。新しいネーミングをしようか、という時に、本学の人類学を研究している西村先生(本研究拠点 事業推進担当者)から「文化遺産の保護の中で使われているエンハンシングという言葉を使うのはどうか」という提案がありました。エンハンシングという言葉が何を指すのか事情を聞いてみますと、次のようなことを説明してくれました。地域にある文化というのは、その地域に住んでいる人々にとっては、 どれだけの価値があるのか分からない、ということがよくある。そこで、文化人類学の人たちは、あなたがたの文化にはこれだけ意味があるのだということを教え、地域に住む人たちとの相互協力の中でその文化を保護していく、ということを行っている。 つまり、「エンハンシング」ということは、私たちがこれから行う総合的なアジア各地の地域文化研究において、現地の人々と相互に発見し、保護し、研究していく、というテーマと合致している。 このようにして、本研究拠点の名称に「エンハンシング」という言葉を用いることになったのです。

大橋(以下O):たしかに、各地域で住んでいる人々は、古くからある文化を当たり前に自然に受け入れていて、価値があることを知らないのが現状ですね。  日常に隠れて意識されていないものから、外部の眼で新しく価値を見つけ出し、価値があるものだという再発見・再認識をする。日常生活においては、この「エンハンシング」という言葉は、非常に耳慣れないものですが 結果として、多くのメンバーが、この言葉の表す志のもとに集まりました。  
 対談風景1

対談風景1
(右)拠点リーダー 大橋一章
(左)文学研究科委員長 工藤元男
工藤元男

文学研究科委員長
工藤元男

「エンハンシング」という言葉の意味-2

K:この「エンハンシング」という言葉を使って本研究拠点を立ち上げた時に、早稲田学内でも違和感を与えたようです。 この言葉を説明するのが、想像以上に大変でした。理解しづらいという指摘も受けましたが、一方では、言葉に対する違和感から逆に関心をもって頂けたのが副産物だったと思います。

O:そうですね。実際、本研究拠点の名称「アジア地域文化エンハンシング研究センター」は非常に長いので、早稲田学内関係者が省略形で呼ぶ時に「エンハンシング」というだけでわれわれのことを指すことが多いようです。  学外でも「エンハンシング」という言葉のインパクトでこちらを覚えて頂いたといったように、コミュニケーションの際に効果があることに当初から気付きました。

新しい言葉が新しい学術成果をあげた例

K:「出土資料」という言葉が挙げられます。研究資料には、考古学的に発見されたさまざまな資料、たとえば、文字資料・美術資料・医学資料・建築学の資料があります。 こういったものは、これまでばらばらに研究されてきたのですが、総合的に学際的に研究していこうという動きになり、1995年に東京大学の池田知久先生を中心として、「中国出土資料学会」を立ち上げました。 当初は、数十人が集まって出来た学会にすぎなかったのが、その後若い意欲的な研究者が多く参加し、今は300人以上の規模の全国学会となっています。現在はその活動を通して「出土資料」の研究に対する認識を深めていす。 国内外でも類例の無い学会ですね。

O:「出土資料」という言葉は、私の専門の美術史の言葉でいうと、土中古(どちゅうこ)というのです。また、人間の意志で世の中に代々伝えられたものを伝世古(でんせいこ)といいます。 文化財の伝来する方法には2種類あり、それが伝世古と土中古なのです。土中古が「出土資料」という言い方になると、また違ったイメージを喚起しますよね。 「出土資料」の言葉は、物品だけでなく、まさに文化・文明水準のバロメータである文字を書いた文字資料もたくさん含んでいることを想像させます。 学問への取り組み方まで意識させる、という意味で、名称などの「言葉」は非常に大事なのだといえるでしょうね。
 大橋一章

拠点リーダー
大橋一章
対談風景2

(上)VIをモチーフとした名刺
(下)研究拠点名の中国語訳:
「亜洲地域文化遺産活用研究中心」

名刺で使用した本研究拠点名称の中国語訳、
また、VI(ビジュアルアイデンティティ)も、
国際的なコミュニケーションを意識した。

K:中国語訳は、中国文学の稲畑耕一郎先生(本研究拠点 事業推進担当者)の提案です。われわれの研究プロジェクトは中国が中心となりますので、研究チーム名を中国語訳しなければなりません。 中国の学者がわれわれの研究をどのように受け入れて評価するのかという点でも、「エンハンシング」という言葉を訳するのは難しいのですが、非常に苦労して中国語訳を作ってくださったのです。 VIは、我々によって新たに発見されるアジアの地域文化が、アジアを隅々まで照らし出す、というイメージですね。我々の研究がどこに眼差しを注いでいるかということを象徴的に示しています。

O:ええ。「再発見・再認識=新しい光を当てる」というイメージで、解していただければ、幸いです。

プロフィール

大橋一章(おおはし・かつあき)
1942年、中国青島生れ
早稲田大学文学部教授 會津八一記念博物館長
東洋美術史を専攻、著書に『天寿国繍帳の研究』(吉川弘文館)他。
早稲田大学第一文学部長をつとめた後、早稲田大学アジア地域文化エンハンシング研究センターの構想に携わり、現在、拠点リーダー。

工藤元男(くどう・もとお)
1950年、山形県生れ
早稲田大学文学部教授 長江流域文化研究所所長
中国古代史専攻、著書に『睡虎地秦簡よりみた秦代の国家と社会』(創文社)他
早稲田大学アジア地域文化エンハンシング研究センターの構想に携わり、現在、事務局長および大学院文学研究科委員長。


次回の特集は、対談(2):本研究拠点での研究・教育状況についての予定です

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